『援助関係論入門:「人と人との」関係性』(有斐閣 2017)の「はしがき」です。内容の概要を説明しています。

 

■援助の多様なイメージ

 「人を助けることとはどういうことですか」とたずねられて、何のイメージも浮かばないという人はいないでしょう。
 たとえば、身近なところでは、電車やバスで席をゆずることや、駅や施設への道順を教えることなども浮かぶでしょうし、友人の相談にのったり、お金を貸したりすることもあるでしょう。また、幼い子どものそばにいれば、着替えやお風呂など、手を貸さなければならないことは少なくありません。
 あるいは、助けてもらう側にまわると、親にけがの手当てをしてもらったこともあれば、クラスメイトにわからない問題を教えてもらったこともあったでしょう。もちろん、医師から治療を受けることなども含めることができます。いずれにしても、これらは「人を助けること」あるいは「援助すること」と聞いて、すぐさま思い浮かべることのできる素朴なイメージです。一言でいえば、「困っている人に手を差しのべる」といった感じでしょうか。
 それにしても、このように、「助ける」や「援助」ということばには、日常的で軽微なことから高度に専門的なことまでをも指し示す、とても多彩で幅広い意味が含まれています。では、それほどまでに多種多様なイメージを生み出しながらも、それらすべてに共通する何かを示している、この「人を助ける」こととは、そもそもどういうことなのでしょうか。

 

■関係性としての援助
 本書は、この「人を助ける」こととはどういうことなのかといった、あまりにも素朴な問いを頭におきながら、サブタイトルにありますように、人が人を助けることとは、基本的には、「人と人との」関係性の一つであるというとらえ方に基づいて書かれています。
 というのも、「人を助ける」こととは何を「する」ことなのかといった問いをたててしまうと、あまりにも多様な「する」ことに翻弄されてしまうからです。そうではなく、そこで何が行われていようとも、そこにみられる「助けられる人」と「助ける人」との関係性、すなわち、援助関係に焦点をあてることがめざされています。そこで、その入り口を示すということで、『援助関係論・入門』というタイトルにしました。
 また、助けることとは、「何」かに対して、何かを「する」ことであるという前提に立つと、「何」に対してなのか、あるいは、どのように「する」のかといったことについても、たとえば医学などが典型的ですが、それぞれ細分化されて、専門性が確立されていきます。
 ところが、助ける人と助けられる人とのあいだに生まれる援助関係に焦点をあてるのであれば、専門分化する以前の対人援助一般にあてはまる領域を描き出すことができます。というわけで、本書は、基本的には、ソーシャルワーク(社会福祉援助)理論を参照していますが、分野にとらわれない対人援助一般の基礎理論を整理したものになります。
 援助とは、つまるところ「これでOK」と思っていただくことをめざす働きかけであるともいえます。もちろん、そのままの状態では決してOKではないからこそ、その改善をめざした働きかけが行われ、少しでもOKに近づけようとします。具体的に何をするのかをあげていけば収拾がつかなくなるほどに豊かな「人が人を助けるということ」について、助けられる人と助ける人との関係に焦点を当てながら、その正体に少しでも近づきたいと思っています。

 

■本書の構成
 本書の構成として、まず、援助活動には、「対象」「関係」「過程」の三要素が含まれていることを整理することから始めます(第1章)。その上で、心理臨床家ロジャーズの論文を手がかりに、これら三要素が援助を構成する必要条件であることを確認します。
 次に、援助対象をどのように設定してきたのかという歴史的変遷をソーシャルワーク理論史にそってみていきます(第3章)。つづいて変遷過程から抽出された二組の対立概念に基づいて、対象把握の枠組みを形成します(第4章)。その枠組みに基づいて、4つの援助モデルを構成し、それぞれの長所や短所について整理します(第5章)。
 援助関係論に入る前に、そもそも「他なる人」とはどういう存在であり、向き合う際にはどのようなことに留意すべきなのかを論じます(第6章)。
 援助関係のあり方については、まず、先に見た4つの援助モデルに対応して4つの性質をもったあり方に整理できることを述べます(第7章)。また、どのような援助関係のあり方が時代的に求められてきたのかという変遷をやはりソーシャルワーク理論史にそってみていきます(第8章)。
 さらに、もう一つの構成要素である援助過程については、物語の書きかえや自己決定の尊重をめぐる困難さを中心に論点を整理しておきます(第9章)。
 そして、日本の援助理論家たちの言説を手がかりとして、まず、人が人を助けることを根底で支えている「人と人との」関係性を浮き彫りにし(第10章)、その上で、そうした関係性が前景にあらわれるときに自覚される「無力さ」の意義について論じます(第11章)。
 最後には、「なぜ、人は人を助けるのか」といった素朴な問いを考えていくための手がかりを概観します(第12章)。
 なお、実際的な援助コミュニケーションと具体的な物語の書きかえをめぐるいくつかのコラムを差しはさみました。


 末尾となりましたが、有斐閣書籍編集第2部の堀奈美子さんには前の共著『社会福祉をつかむ』からご担当いただいており、いつも丁寧かつ的確なアドバイスをいただいてきました。今回も、粗雑な素材をこのような形に仕上げていただき、雑駁な議論にもかかわらず、世へと送り出すようご尽力くださいましたことに、あらためて深謝いたします。